母子寮

2020年9月8日


 私の家の近くに〈母子寮〉があった。幼稚園生のころは、そこの園庭にある遊具で遊んでいた。母子寮の玄関はいつも開いていて、私はひとりで、あるいは友達と建物に入ることがよくあった。コンクリートの床は冷たく、夏であれば涼気をとるために、そこに座ってぼんやりと過ごした。

各部屋の扉はいつも閉ざされていて、中に人の動く気配はなかった。母子寮にはいつもしんしんとした空気が漂っていた。

 その後、私たち家族は別の街へ引っ越し、成人してから母子寮を訪れてみたが、建物は取り壊されていた。子供のころは大きく見えた建物も敷地だけになると、驚くほど狭く見えた。

 

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