見えない傷

2021年4月23日



 北谷町にあるキャンプ桑江の米軍海軍病院(U.S. Naval Hospital)は現在、別の基地に移転したため使用されていない。建物は空き家になっている。

 1958年に竣工されたこの建物の現在の写真が新聞に掲載されていて(週刊タイムス住宅新聞第1840号4月9日付)、その病院内に入ったことはないが、強い既視感にとらわれた。

 光沢がある象牙色のタイル張りの廊下は奥へ広々と伸びている。壁と天井は一面白色だが無機質な感じがしないのは、両側の窓から射しこんでいる明るい光のせいだろうか。「清潔」そのものの印象を与える。

 しばらくして思い当たった。私たちはこの病院内の光景を映画で何度も目にしてきたのだ。ヴェトナム戦争を扱ったハリウッドの映画ではもちろんのこと、台湾映画や、うろ覚えながらキム・ギドクの映画にも出てきたのではなかったか。特に意識することなく見てきたが、アメリカ規格の軍病院は国境をまたいでアジア映画に当たり前のように登場する。

 同じことは、コカ・コーラのロゴマークについてもいえる。赤色はここぞというとき映画に好まれる色なのかもしれないが、このアメリカの商業的アイコンは60年代を舞台にしたホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンの映画にも出てきたし、香港でも初期のウォン・カーウァイ作品にもあらわれる。もちろん沖縄にとってもコカ・コーラの看板は日常生活そのものだったのだから、当時の8mm映像や写真にはかなり映り込んでいる。

 これほどまでに商品や文化の形をして東アジアの私たちの生活の中に溶け込んでいる「アメリカ」。もはや切り離しようもないくらいに違和感なく収まっている。それこそ、私たちに刻印された、本当の意味での「傷」ではないのか。


QooQ