世界の関節

2020年2月26日






The time is out of joint.(世の中の関節が外れた)」とは『ハムレット』のせりふだが、そんな昔から世の中の歪みを嘆いていたのだと思うと、いまの社会を見回して溜息をつくまでもなく、人はいつでも調子の狂った時代に生きているものなのだと考えるべきかもしれない。

レオス・カラックスの映画『Pola X』の冒頭にも、このせりふは戦時の空爆の映像とともに使われている。

なにひとつ不自由なく暮らす若い男が、あることをきっかけに暗い情念に突き動かされて破滅的な結末に向かう。親密圏のなかに外部が入り込んでくることによって、自分の享受している地位が社会的につくられた虚構の上に成り立つものだと気づき、その虚構を壊していこうと決心する物語ととらえることもできる。

絶望の衣をまとった希望の映画に見える。すべてが終わったあとに、男は警察車両の格子窓越しに空をあおぐ。葉を落として黒々とした木の枝の向こうに、くもり空はかすかな光の気配をたたえている。

しょせん社会は変わらないよ、とうそぶきつつ自らを体制に適応させて暮らしていくのもひとつの生きるすべではあるが、社会の流れに逆行するかたちで行きつくところまで行く道もあるのだということを映画は示唆する。その果てになにが見えるのかを考えてみたい。


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