夜、知らない街や通りをさまよい歩いた記憶がいくつかある。
半島にあるホテルからフェリーで海を渡って港に行く。わずか10分程度の旅だが私たちは仕事の合間にぽっかりと空いた時間を得たことに、いささかはしゃいでいた。帰りの出航時間を確認して船をおりた。
あたりを散策し、瀟洒な小料理屋に入った。沖縄にはない日本酒や現地の刺身に箸が進んだ。日本酒があまりにも美味だったので私たちは、だいじょうぶ、間に合う、あと少しと、ぎりぎりまで飲みつづけた。そして、あろうことか、港に駆けつけたときには、最終のフェリーはとうに出ていた。
海の向こうにホテルの灯りが見える。意外と近いのではないか。海岸に沿って半島へ歩いていけばすぐ着くような気がする、とは誰が言い出したのか。みな首肯している。そこで私たちは歩くことにした。ところが、歩けどもホテルの灯りは近づかない。違う方向に向かっているのではないか。もしかするとホテルのある場所は地続きの半島ではなく、孤島なのではないか―。
私はだんだんと不安になってくるが、それを口にすると士気をくじくのではないかとなにも言わずに歩く。他の人たちも同じように思っていただろう。次第に無言になってくる。寒さが募ってきて酔いが醒めてくる。いつのまにかホテルの灯りは見えなくなっていた。
1時間以上も歩いたと思う。やがて隧道のような暗くてだだっ広い場所に入った。私の不安は頂点に達した。なにかに追い込まれたようで息が浅くなる。
だがトンネルを抜けるとホテルの建物がすぐ間近に見えた。私たちは半島を大回りして裏に来ていたのだ。ホテルはお祭りのような人のにぎわいで、煌々とした灯りを海面に投げていた。