午前4時の配達人

2020年2月21日



 カツカツカツというハイヒールの音が集合住宅の渡り廊下に響く。私はその音に目をさました。時計を見ると午前4時を少し回った時刻だった。私の部屋のドアの郵便受けに新聞が入る気配があったので、ハイヒールの音は配達人のものだと気がついた。カツカツカツはすぐに遠ざかっていく。寝ぼけている私の頭の中にいろいろな疑問が湧いてきた。数をこなすために効率の良さが求められる新聞配達にハイヒールは不向きなのではないか。若い女性と思われるが、新聞配達をするのはめずらしい。なにか事情があるのだろうか―。

毎朝ハイヒールの音が聞こえてくるたびにそんなことを考えてしまう。この何年かのうちに新聞配達をする人は何回か変わっている様子だったので、そんなに長続きのする仕事ではないのだろうと思っていた。おそらく廊下に響く靴音はしばらく日にちがたてば聞こえてこなくなるだろう。そんなことを考えてまた眠りにつく。

しかし、ハイヒールの音はいまのところ毎朝つづいている。


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