シンプルだけれどもよく選ばれた感じのするTシャツにワークパンツ、小型のヘッドフォンにリュック―というのが、その人のスタイルだった。洋楽とサッカーが好きで、私たちは仕事の息抜きによくそれらの話題で盛り上がった。おすすめのCDを貸してほしいと頼んだら、Bernard ButlerのPeople Move Onを持ってきてくれたが、それは私も持っているお気に入りのアルバムだったので偶然の一致に笑い合った。
その人の弟がかなりのサッカーファンで、仕事を辞めてUEFA EURO 2000の試合を観に行ったのだと聞き、そうか、そういう思い切った手もあったのかと、私もいつか仕事もなにもかも放り出してサッカーの試合を見に行く旅に出たいと夢想するようになったが、けっきょく辞めるタイミングを逃してしまい、夢想だけに終わってしまった。
その人とは、ある時期に職場がいっしょで、たまにおしゃべりをするというだけの間柄で、その後私が退職してからは一度も会っていない。好きな音楽が一致していたという記憶だけがその人との、文字通りの「接点」だった。しかし、いまごろになってその人の面影が思い浮かんでくるのはどうしたことだろうか。
あれから20年経ってアルバムを聴き返しても、“she's got no ryhthm, she
says”(Woman I Know)と切々とうたうBernard
Butlerの声は変わらない。