採用面接をごくまれに担当するときがある。若い男性の面接を終え、おたがいの緊張がとけ、最後に質問はありませんか?と軽い気持ちで口にした。すると彼は「あなたの仕事上のモットーはなんですか?」と訊いてきたのである。想定外の質問に私たちは面食らった。待遇面とか、業務の留意点などを訊ねるだろうと思っていて完全に油断していた。
ともに面接を担当する私の上司は、「ぶれないこと、かな」と冷静に答える。そして業務での例を挙げてよどみなく説明していく。その説明に感心しつつ、次は私の番だと焦って自分のモットーを考える。特にない、ということに気づき半ば呆然としながら冷や汗を流してしどろもどろに答えた。まるで自分たちが試されているようで、どちらが面接を受けているのかわからないなと後で上司と苦笑し合った。
いつ誰に訊かれてもいいように、常に自分のモットーを用意しておいたほうがいいのだろう。「石の上にも三年」とか「さよならを言うのは、わずかの間死ぬことだ」とか。
いや、きっと私はそのたぐいの質問をされるたびに口ごもるだろう。モットーのように明解にひと言で表現できれば、人生はもっとスムーズに流れていくのかもしれない。
後日、その男性に採用決定の通知を出したのだが、別の仕事が決まったので断りたいとすぐに連絡があった。試されていたのは、やはり私たちだったのである。