夜の記憶 4

2020年4月4日



夜、知らない街や通りをさまよい歩いた記憶がいくつかある。

なぜその時間帯に歩いていたのか、高校生のときのことなので記憶がおぼろだ。真夜中近く、那覇市にあるアーケード市場にいた。通りに並ぶ店はすべてシャッターがおりていて誰も歩いていない。そのなかを私は急ぎ足で出口に向かおうとしていた。うしろから轟音が聞こえてくる。振り返ると遠くに黄色の丸い点がふたつポツリと浮かび上がっている。立ち止まって見ていると点は急速にふくらんで大きくなってくる。それが車のヘッドライトだと気づいたときにはずいぶん私に近づいていた。車はブレーキを踏む気配がない。轢かれる、と思い私はとっさに逃げ出した。車は私の駆け足に合わせるようにスピードを落として執拗に追いかけてくる。しばらく追いかけっこがつづき、かろうじて脇道に逃れ、事なきをえた。

……いろいろ疑問が湧いてくる。市場のあの狭い通りを車が走行することは不可能ではないのか、ふだん人の多いあの市場になぜ私ひとりしかいなかったのか、そして、そもそも車はなぜ私を追いかけてきたのか。

「まるで映画のような」という常套句しか思い浮かばないが、映画の中なのか現実なのか、記憶は曖昧な境界をさまよっている。


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