私の日常生活から、「抱擁」という行為が失われてだいぶ久しい。これが学生時代を経て「社会人」になるということであろうか。日ごろ接する相手には会釈・目礼をするか、親しい相手には握手・手を振るぐらいだ。
あるイベントを終えて、パネリストであるその人を見送ったときのこと。私はその人の発言のひとつひとつに感銘を受け、そのことを伝えたいと思っていたが、慰労会ではつたないことばをポツポツと語ることしかできなかった。店の外まで見送り、最後のお別れのときになって、さよならを言う代わりにその人は腕をひろげ、私たちはつかのま抱擁し合った。
ことばで表現することはもちろん大切だが、ときにはそれなしでも充分にお互いの気持ちが通じ合うことがあると思う。
「Embrace(抱擁)」 相手の存在を積極的に受け入れるという意味もある。