小学校帰りの男の子が、ランドセルの肩ひもに両手をかけて歩道を歩いている。目に入る物はすべて見逃さないとでもいうように、前後左右を見回している。男の子にとって放課後の世界は新鮮な驚きに満ちているのだろう。
その姿を見て私は、『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)の「コペル君」、そしてアーサー・ランサムの「ツバメ号」シリーズのディック・カラムを思い出す。一見、優等生タイプだが、持ち前の好奇心と勇気で物事に挑み、最後は解決を導き出すメガネの少年たち。しかし、いったん興味のある対象を見つけたら脇目も振らず研究を始め、周囲のことを忘れてしまう愛すべき少年たち。
その男の子は、何かを見つけたにちがいない。街路樹の下に立ち止まり、葉を裏返して熱心に調べている。
放課後、家までの帰り道は冒険の場に早変わりするし、貴重な無為の時間でもあることを小学生たちは知っているはずだ。小学生のときの私もまた空想にふけることがよくあって、自分でつくりだした物語を終えるのが惜しくて、遠回りの道を選んだり家の周囲を何周もしたりと帰宅を延ばすことがよくあった。いまにして思えば、なぜそんなことをしていたのか不可解であるが、一心不乱に世界の事象を見極めようとしている少年に、私の幼少時を重ね合わせてみることに心地よさを感じたのも事実。