髪を切る

2021年8月31日



 車の後部座席には女子中学生ふたりが乗っている。他の生徒と待ち合わせをして三人いっしょに登校するのが日課である。その生徒が待っているアパートの前に近づくと、ふたりは歓声を上げた。「〇〇ちゃん髪、切ってる!」「かわいい!」。まるで自分のことのようにはしゃいでいる。
 私は運転席からその女子中学生を見る。たしかに、昨日までは肩まである長髪だったのが、思いきり髪を短く切っている。仲間から褒められるのを確信している晴れがましい表情と、喜びを抑えられずにあふれる笑顔。
 たぶんこの年齢の女の子にしかできない感情の表出。なにか触れてはいけないものを前にしたようで、私はちらりと見るだけにとどめたが、その笑顔は早朝に鮮やかに開いた花のようで、頭の中に焼き付いて離れない。

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