週に一度の仕事を終えてから、2時間ほど図書館で本を読むことにしている。頭はさきほどの仕事のことを考えていて落ち着かないし(私は人を前にしてずっとつたない話をしていた)、一日外に出ているので背中や腰が痛くて疲れているのが自分でもわかるが、本を読んでいるうちに(その内容にのめりこみ)次第に興奮はさめてきて、身体の疲れも遠のいていくのを感じる。目を上げると外は暗い。吹き抜けになっている建物の最上階に座っていると、下の階の人の気配―咳、ページをめくる音やささやき声など―が立ち昇ってきて、一時だけよどみ、薄れていく。
ふと、私はひとりの時間を長い間持ったことがなかったのだと気づく。四六時中いつでも誰かといる。本を読むときでさえ、ひとりになることはなかった。
これは自分のための時間なのだと考えるとうれしくなる。だが、図書館にいるのは私だけではない。それぞれが自分のためになにか―勉強、読書―に孤独に打ち込んでいるのだ。そう考えると、吹き抜けを通して立ち昇ってくる気配は凄みを帯びてきて圧迫されながらも、矛盾するようだが包まれるような安心感も同時におぼえるのだった。