虫を愛ずる

2023年5月14日


 最近、虫が嫌いな若い人たちが増えていると実感することがたびたびある。私の周りを見回してもそういう人は多い。幼いころから虫に触れるという環境がなくなったのが原因なのだろうか。考えてみると、私の子供のころは、ゲーム機やスマホがなかったので、外に出て森や原っぱで遊ぶしかなかったから、虫を捕まえるのも楽しみのひとつだった。アオカナヘビをたくさん捕まえたりしていたのが、いまは沖縄本島の中南部では絶滅していると聞き、時代の流れを痛感する。

 私自身は虫に抵抗がなく、家でヤモリが出没すると手でつかまえて外に出してやる。家人たちはそんな私を気味悪がるので、ふざけてヤモリを相手の顔の手前まで近づけると悲鳴をあげて狭い屋内を逃げ惑う。しかし、ヤモリは正面から見るとまん丸の目に愛嬌のある口元と、実にかわいい顔をしているのである。

 虫の話を若い人たちとした。例に洩れず、虫が嫌いだということだが、そんな彼女たちも幼いころはためらいなく虫をさわれたというのだ。中につわものがいて、ゴキブリも触角を握って捕まえていたと言う。その発言に場はざわめいた。「あのとき、なぜ気軽にさわることができたのかわかりません」と恥じらいながら言い訳をする。

「堤中納言物語」の中の有名な「虫めづる姫君」という話を思い出す。

「かは虫の、心深きさましたるこそ心にくけれ。」とて、明け暮れは、耳はさみをして、手の裏に添へ臥せて、まぼり給ふ。

(「毛虫が思慮深い様子をしているのは、実に奥ゆかしい」と言って、前髪を耳の後ろにはさみ、日がな一日、毛虫をてのひらに這わせてじっと見守られている)

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