沖縄に住んでいるので、県外への移動は旅客機ということが多い。そんなに旅をしているわけではないが、それでも10代から現在までかなり利用してきたのではないかと思う。
いつからか旅客機に乗ることが怖くなってきた。あの何百トンもある鉄の塊が空に浮いているということが身体感覚的に信じられないのである。わずか1.5ミリ(!)の厚さのジュラルミン製外板の外は高度1万メートルの上空であると考えると膝から力がぬけていく感覚にとらわれる。
飛行機の飛ぶ原理というのを物理学的に説明されても、素人には偶発的に空に浮かんだようにしか思えなくて、不安をかきたてられる。一つの場所から飛び立ちもう一つ別の場所へ安全に降り立つというのは、実のところ奇跡なのだと考えたほうがいいのかもしれない。
そんな話をしながら海外へ向かう航空機に私たちは乗り込んだ。同乗のその人もまた飛行機恐怖症だった。対応策を私に教えてくれた。席につくやすぐに酒を飲むのだという。見ていると、離陸しシートベルト着用無用の合図と同時に、キャビンアテンダントを呼び酒を頼む。ビール、ワイン、シャンペンと次々と頼んでは飲み干していく。そしてその人は眠りに落ちたのだが、その寝顔を横目でうかがうと、心安らかとはとても言えない皺を眉間にきざんでいる。そうまでして乗らざるをえないその人の心境を思いながら、私はまんじりともせずに着陸まで過ごした。
旅客機は無事に現地に着いた。空港のロビーに出ると土のにおい、熱帯夜のじっとりとした空気がからだにまとわりつく。一瞬、沖縄にもどったような気になり、どことなく親しみをおぼえた。帰ってきたわけでもないのに、帰郷したような安らぎ。空港は私たちを迎えてくれる。