夜の記憶

2020年1月21日



夜、知らない街や通りをさまよい歩いた記憶がいくつかある。

タイからマレーシアへのバスに乗ったときのこと。だいぶ長い時間バスに揺られて、クアラルンプールに着いたときには、真夜中を過ぎていた。到着時刻は想定していたはずだが、眠り込んでいたところをいきなり起こされて、駅前に放り出されたので私はなすすべもなく呆然としていた。バンコクと同じで宿など簡単に見つかるだろうと安易に思っていたが、駅周辺はしんとしていて真っ暗だった。人けがまったくなかった。

乗客たちは、地元住民が多かったのか、それぞれ目的の場所へさっさと散っていく。路上に残されたのは、私とバックパックの男性だけだった。目を合わせてうなずいた私たちは、街の中心部と思われる方向へともに歩いた。男性はオランダ人でヨハンと名乗った。一年の休みをもらって世界一周をしているという。

東南アジア特有の蒸し暑い夜気、街灯があたりを黄色く彩っている通り、石造りの堅牢な建物の間をとぼとぼ歩く私たちの足音。いまとなっては、そんなことしかおぼろに憶えていない。

道中、ほかにどういう話をしたのだったか、記憶からは抜け落ちている。ただ、こんな見知らぬ街を真夜中にひとりで歩かなくて済んだことに安堵したものだ。

私たちはやっとのことYMCAの灯りを見つけた。


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